松尾メソッド
2023年03月16日

葛藤とは何か

 今回の投稿はメソッドの「行う」の説明になります。私が考える理想的な指導とは指導者主体ではなく選手主体の指導法です。しかし、この方法には大きな欠点もあります。選手の質が悪ければ指導の効果はでません。選手の精神的なポテンシャルを上げなければ身体的ポテンシャルには結びつかないと考えています。その方法として「葛藤域」に上手に誘導するという方法を取ります。今回からその方法と道筋をお話します。

 

 方法論よりも目的論で考える

    日本人はマニュアルが好きな国民だと思います。こうあるべきといった方法論については沢山のやり方があり、それが~流といった表現もされます。しかし人間十色という様に同じ言葉で伝えても解る人間、解らない人間がいます。また同じ言葉を全く逆の意味でとらえる人間もいます。私は何かの行き違いでトラブルになった時「私はそんな意味で言っていない」という釈明は意味が無いと考える人間です。どんな意味で言ったかは問題ではなく、相手にどんな意味で伝わったかが問題です。できる限りこちらの言いたい事が正確に伝わる為の観察は必要です。身体的、精神的なポテンシャルを見極め選手の特性を活かしスムーズに葛藤の域に入れるように誘導することが良い指導と考えます。まず,選手が葛藤に至るまでの道筋をお話しましょう。

 葛藤とは何か

1,葛藤に至る筋道

    この図は葛藤における感情とエネルギーの関係性とパフォーマンスの効果を表したものです。スポーツに限らず勉学、仕事のスタート時点では不安はあるでしょうが希望の方がはるかに大きいと思います。新しい事を始める。新しい環境で頑張ろう。その時のポジションが図①になります。また、最初から自分の目的を明確に持っている場合は出発点が③のポジションからスタートする人間もいます。ここでポジション①とポジション③の人間では目的が違うと思います。ポジション①は楽しさや興味を第一の目的と考える事が多いと思います。そこからとポジション②になり、ポジション③に気持ちが変化する度に目的が変わります。具体的に言えば、楽しく仲間を作りたいから試合で勝ちたい、記録を伸ばしたい等に変化するでしょう。しかしポジション①のまま移動しない人間もいます。このポジションごとに選手が持つ目的が選手側の目的(目的①)になります。指導者の立場では選手の身体的ポテンシャルを観てその選手の完成形をある程度把握することができるでしょう。この場合の選手のポジションが③である場合はお互いの目的は一致します。しかし選手のポジションが①の場合、指導者は選手の目的に合わせた指導を行うべきと考えます。もし、選手の目的意識が低い状態で身体的ポテンシャルのみを重視し楽しい運動から勝つための練習の指導を行えば選手は悪い状態になります。これは選手の可能性を潰すことになりかねない悪手といえるでしょう。

2,目的にそった指導を心懸ける

 運動に限らず、勉強、仕事でも大きく成長する為には,必ず葛藤を経験する必要があります。中には何の葛藤もせず問題を解決したり結果を出す人間がいます。俗に言う「天才」といわれる人間ですが極僅かな存在です。普通の人間は葛藤を繰り返しながら正しい方法を探し、自分を鍛えて行かなければ実力はつきません。天才も何もしなければいずれ才能も涸れるでしょう。優秀な指導者は選手の身体的ポテンシャルに合う課題を選手に提供しながら上手に葛藤に導く手段が上手い指導者であると思います。葛藤を何度か繰り返す事で精神的なポテンシャルが向上し、困難の克服の仕方、状況を改善する方法等を身につけていきます。そして自立した選手になり自律した人間に成長させる。強さや結果のみを求める指導者は良い指導者とは考えません。そこで指導者が把握すべきことは選手のポジションが上図のどこにあるかを正確に把握することです選手のポジションが①の場合楽しく仲間を作ろうという目的になるでしょう。これを選手側の目的(目的①)とします。その時指導者が選手の身体的ポテンシャルの高さに注目し勝てる選手を育成したいと考えたとします。この指導者側の目的を(目的②)とします。もし、選手のスタートのポジションが上図の③であれば双方の目的は試合で勝ちたい。記録を伸ばしたいで一致します。しかし選手のポジションが①楽しく活動したいからスタートしたならば指導者の目的も走る事の楽しさを教えてあげよう。にならなければ選手は不満を感じ以前書いた「悪い状態」に入ります。同じクラブにはそれぞれ違った目的を持った選手が一緒に練習することもあります。指導者は選手の目的を把握し、その目的にあった課題を提供し、目的のポジションを上げていく工夫が必要です。全員が同じ目的で同じメニューをこなす練習ではチームとして向上はできません。次回は課題とは何か、どの様にして与えるかについて書いていきます。