松尾メソッド
2023年07月13日

コンデションを観る

   コンデションを観る

 ポテンシャルは生き物です。成長している時もあれば後退する時もあります。その鍵を握るのがコンデションです。私が練習をする時に一番気を使うのがコンデションの管理です。コンデションを管理する時には選手のコンデションが「観えて」いる事が重要です。一昔前まではコンデションが良好でない場面を精神論で片付けてしまうこともあリました。これでは体が強い選手は良いですがまだ成長過程の選手では潰れてしまうかもしれません。
 私がコンデションにこだわる切っ掛けは私が中学2年生の時に自分の学校の陸上部が幽霊部活になったことから始まります。中学2年生時に始めて県大会を経験しましたが暑さと緊張で自分の力をまったく発揮できなかった経験をしています。結果的には千葉県通信陸上大会2年100m5位。県総合体育大会共通100m8位に入賞することができましたが満足できない感覚だけが残った記憶があります。そこで試合に向けて一番良い状態で臨むにはどうすれば良いかを考え陸上の雑誌やスポーツに関する本を読んでいくうちにコンデションを管理することの重要性に気がつきます。当時部活動が幽霊状態だったので下校時間を気にしないで学校で練習したり,場所を変えて練習したりもしました。とりわけ足が重いと感じた時は公園の芝生などをゆっくりとジョギングしながらコンデションを整えたりもしました。当初身体的コンデションを管理することだけを考えていましたがコンデションを考え,管理することで精神的コンデションも上がっていったと思います。この時に自分のコンデションを数字で表すことを始めます。次がその公式です。 

 この様な取り組みが実ったのか次の年はある程度試合終了後に力を出し切ることができたかなと感じる大会が多くなりました。

1、コンデションとは何か
    コンデションには二つあります。ポテンシャルと同じ精神的コンデションと身体的コンデションです。それぞれのコンデションについて練習における注意点をまとめてみます。

(1)清新的コンデションが悪くなる段階
    精神的コンデションが悪い状態にも3段階あります。それぞれ軽度、中度、重度とします。そこで前出の葛藤の図を参考にもう一度解説をします。

 ①軽度・・自分の限界の壁に当たり始めた頃。今までの順調な成長が止まり焦り感が出始める。上手くいかない苛                       立ちで心が疲れ始める段階
 ②中度・・葛藤の域に突入する。試行錯誤でもがき始める段階
   ③重度・・悪い状態。苛立ちが不平不満に変わる。懐疑的になり場合によっては攻撃的、反抗的になる。

    上の図は、葛藤に入るまでと精神的コンデションの位置を示したものです。①軽度の悪化、②中度の悪化の場合はアドバイスは入ります。しかし③重度の悪化のポジションに入ってしまった場合はこのポジションを抜けるまで、あるいは本人からヘルプの要請が無ければ静かにしておく方が解決が早いことも多いです。心配もありますが待つことが一番重要です。指導者の立場では一番苦しい時間です。
 ①、②のポジションでは選手が間違った判断をしないようにアドバイスをすることが大切ですが強引に間違った判断をしない方向に指導者が誘導すると③重度の悪化のポジションに入る可能性があります。選手個々の特性にもよりますが経験の浅い若い選手には精神的コンデションが低下した兆しを見逃さず最終的には本人が判断するように導く事が大切です。精神的コンデションの乱れは精神的ポテンシャルの低下を招き間違った判断をします。この間違った判断が影響を与えるのが身体的ポテンシャルの低下になります。

(2)身体的コンデションが悪くなる理由
 身体的コンデションが悪くなる理由は二つです。一つは怪我が原因によるもの。もう一つが練習の質や量が自分の持っているポテンシャルを超えた時に悪くなる時があります。これはオーバートレーニングによる筋肉や骨格に溜まった疲労が回復できなくなった時に起きます。体が常に重いと感じたり、動きのリズムが狂っていると感じたりします。しかし初期段階ではこの状態に気づかず,はっきりとした体の不調を感じた時には取り返しがつかない状態になっていることがあります。この様な時に積極的な休養をとれれば良いのですが練習を休む不安や不調になった原因が特定できないなどの理由から練習の質や量を落とさずにいれば身体的コンデションは低下し、その為に身体的ポテンシャルも低下します。解りやすい例で言えば「腹八分」という言葉は、おいしく栄養がある物でも腹八分で食べていれば栄養となり筋肉や骨を強くしますが食べ過ぎるとお腹を壊してしまいます。これは、強い練習だけがポテンシャルを上げる方法であると間違った認識と判断をした結果です。

(3)コンデションを観る
 選手もの人間です。精神的コンデション、身体的コンデションが常に一定のレベルで推移することはありません。最初の変化は微妙なものです。原因も昨日は何も影響がないような事でも今日は大きな影響を与えることもあります。そしてコンデションを観る作業が一番骨の折れる作業です。先ず細心の注意が必要です。悪い状態の方向に進み出した瞬間を見逃さない。身体的コンデションは動きが重く感じる等で注意深く選手を観ていれば兆しを見つける事は容易です。例外的に動きが軽く良すぎる場合も要注意です。これは10ℓのバケツに15ℓの水が入ってしまった状態の様に意図していなくても自分のキャパを超えている可能性があります。この様なことが年間に数回に数回は起きます。この時、本来もっている選手のポテンシャルを超えてしまった状態かポテンシャルが上がっていたから動けたのかの判断は難しく判断をあやまると選手がスランプ状態になります。
 身体的コンデションは見える変化で判断できますが精神的コンデションは見えない事が殆どです。僅かに判断できる表情、言葉の変化などから探っていく必要があります。戦略と目標の冒頭でも書きましたが戦略的に練習のスケールを考えられる指導者は選手個々のコンデションが観えていなければなりません。そしてコンデションを下げないための細心の注意をはらい目標に向けて確実に前進、上昇している曲線を描くスケジュールを組みます。またそれをする必要があります。 

 雑記

 若干コンデションから離れます。以前、走高跳の選手を二人110mハードルの選手に変えたことがあります。一人は小学校の市内大会で走高跳で優勝しています。この選手が2年生時に種目変更をしました。最初は2種目同時進行でした県新人大会時にはハードルに専念し入賞しています。も一人の選手は県新人大会の走高跳で入賞していますが3年生時にはハードルに転向し新人大会よりも上位の成績を収めています。これは選手の動きや特性が走高跳よりもハードル向きであること。リレーで全国大会を目指すうえで走競技に専念してもらいたかったことが理由です。この時、細心の注意をらったのが選手の精神的コンデションです。そこで一番重要なことは待つことと決めていました。黙って待つのではなく自分はハードルに転向した方が可能性は高いといった判断ができる材料は与えました。但し最後の判断は私ではなく選手本人が行う。この様な方向性だったと思います。最終的に転向の判断は選手からです。リレーも全国大会へ出ることができました。ただこれにはちょっとしたオマケがつきます。全くよそうしない出来事があり肝を冷やした憶えがあります。機会があればこの件も触れましょう。次回は戦術について