メソッドのエピソード
2023年12月23日

自己肯定感という精神的ポテンシャルの土台

 結果を決める要因はポテンシャルです。そして、ポテンシャルには精神的ポテンシャルと身体的ポテンシャルがあります。この二つのポテンシャルを同時に強化することで競技結果を向上させることになります。しかし、身体的要素は筋力を強くする。走る技術を身につけるなど目に見える部分が多く把握しやすいと思いますが精神的要素は見えません。辛い練習に耐える事で強い精神力が身につくといった古典的な考え方で指導をしていると指導者と選手との間で気持ちのズレが生じることもあると思います。指導者の中には成功した方法が正しいと確信し同じ方法で指導し選手を潰してしまう指導者も見てきました。一人の日本一の選手を作るために9人を潰してしまったならば優秀な指導者とは思いません。10人の選手をスタート時点よりも成長させ、最終的に選手に達成感を与える。この感覚が競技を退いた後にも活かすことができる人間を育てる。優秀な指導者はこの様な指導者だと思います。したがって選手を育てるうえで重要なことは身体的ポテンシャルよりも精神的ポテンシャルを重要に考えた指導をすることです。精神的ポテンシャルのイメージとして先程書いた、艱難辛苦を越えて努力を積み重ねなくてはならないといった古典的な考えではなく、困難な状況でも方法を工夫したりしながら新しい道筋を探すことができる能力と考えます。間違ったプライドや固定観念に縛られ自分の殻を破ることができない選手も多くいます。時には自分の考え方や方法をポジティブに否定し全く違った方向性を見いだすことができる能力なども精神的ポテンシャルに含まれます。目的に「強くなりたい」といった芯があるのならば良いと思った考え方や方法に切り替えることができる柔軟性は必要です。
 私が考える精神的ポテンシャルとは、難しい状況を切り抜ける粘り強さと新しい道筋が良いと考えたならばその方向に素早く舵を切れる柔軟性を併せ持つ事です。しかしこの様なポテンシャルを身につけるためには練習が必要です。その効果的な指導法は、指導者が正しいと思う考え方、方法を押しつけのではなく選手に考えさせ判断、実行させるという手順を踏ませる事です。だたし全く無の状態で考えさせることは危険です。指導者は予め選手がどの様な道筋を選択するか、あるいは一番選手に適した選択は何かを見極めておく必要があります。そこで、どの様になりたいかをイメージさせることから始めます。早くても小学生高学年で競技会などの出場するようになってからが良いと思います。それ以前は楽しいと感じること。そして次の練習までにもう少し速く、上手く出来そうなことを課題にし、どうすれば速く、上手く出来るかを考えさせる様にすると効果的です。下の図は肯定感が成長する過程を説明したものです。

 自己肯定感は上の4段階で構成されます。この考えは私見に基づく偏った考え方かもしれませんので参考になると感じた方は参考にして下さい。

①なりたい自分をイメージする段階
 最初に必要な要素は夢・希望といった理想です。小学校低学年くらいであれば「楽しい」と感じる事と置き換えて良いと思います。低年齢化する程、将来の理想と現実が乖離していることはよくありますが最初の段階では夢を否定するのではなく夢に近づこうという気持ちを尊重します。案外簡単な事の様に思いますが強くなりたい自分を意識できる選手は多くはいません。中学生で初めて部活動で運動に参加してきた生徒は友達の関係などで部を選ぶ傾向にあります。子供が自分の理想像を自然に思い浮かべられる様に指導することが必要ですが、指導者が強制的にこの様な状態にしようとすれば子供が指導者に対し扉を閉じてしまうこともあります。

②そう考えた目的を明確にする
 何故そう考えたかの理由を考え,その目的を明確にし、その様になるための条件を明確にする
 例 A選手の様になりたい。理由→自分も全国大会に出たい。目的→自分も陸上の強豪校に進学して活躍する。
   記録で考える A選手 11秒0大の→→→→自分 11秒後半
   成績で考える A選手 全国大会に出ている→自分 県大会準決勝

③理想と現実を考える
 ここで理想と現実がどれほど乖離しているかを確認します。この段階で70~80%位の選手は諦めると思いますが,それでも前に進もうとする選手は①なりたい自分への気持ちが強い選手です。この気持ちを維持させるためには幼少期には楽しいという気持ちを一番にして勝負や結果を意識させない方が良いと考えます。そして一番重なことは今の自分の実力を受け入れることです。案外、受け入れることができない選手は前に進むことができません。前に進むためにも実力と理想の乖離は受け入れ、それでも前進するか諦めるを判断します。

④挑戦することを決める(腹を決める)
 理想に近づくと決めたならばその方法を考える必要があります。どうすれば目標に近づけるかを常に考えながら練習に工夫を加えて行かなければなりまません。そこで重要なことは記録をとり自分の成長を確認、分析する事です。メソッドでは精神的ポテンシャルを家を建てる行程に例え「土台」と表現しています。土台がしっかりしていなければ少しの揺れでも家が壊れます。競技ではアクシデント誘惑に負けて高い身体的ポテンシャルを持ちながら成功できない選手も多くいます。

 後 記

 精神的ポテンシャルでは土台となるじ自己肯定感が大切です。ただ、この自己肯定感ですが狙って作ることが難しいものだと思っています。家庭環境や過去の経験なども重要です。それと上の図の様にきっちりと順を追って成長していくものではないです。もっと動きがグラデーションぽいイメージで最初から①②④の要素を充分持っている選手もいます。この様な選手の場合いは最後に③を意識させ、そこから再度④にあがるといった手続が必要でしょう。そしてこの土台は突然ちょとした切っ掛けで崩壊します。これは選手が自分に無理な負担をかけていた時です。その原因が選手自身か指導者かは解らないことが多いのですが良い指導者であればその前兆には気付きます。そのことを選手に告げ助言をしても間違ったプライドなどが邪魔をすることもあるので指導には注意が必要です。対応を間違えば前に提案した「悪い状態」に入ります。とにかく成長の過程も今の段階も崩壊の予兆も注意して観察しなければみえません。また、選手、指導者ともこの様な考えで意識して観察してはいないと思います。しかし、この様な事を理解し練習だけでなく生活全てを記録し自分の状態を把握しておきことは必ず成長に繋がります。指導者は選手を優先し選手の状態と選手の特徴を理解したうえでの指導が必須です。