松尾メソッド
2023年06月23日

続けるとは間違った選択をしないということ

   続けるとは間違った選択をしないということ

 今日はいきなり問題から。下図を観てください。一番左端にたどり着いて時が正解です。では正解の確率は、何/何になりますか。

 答え 成功◎に辿り着く確率は、1/16。不正解
 正解は1/2。但し,①~④の局面で間違った選択をしないことが条件になります。 

 そこで間違った選択をしないということは常に正しい選択をすること。になりますが、これも不正解。もし正しい選択ができる条件が整っていない。正しい選択をする自信が無いと思ったならば何もしない。言い換えれば選択できない局面では選択をしない。そして選択できる条件を整える。工夫したり今自分でできる範囲内の事にとどめ少しずつ選択できるだけの力と自信を蓄える事が正解です。そこで解りやすい例えを一つ提案します。

 僕は部活帰りに皆とアイスを食べるのが好きです①部活帰り皆でガリガリ君を食べました。おいしかったので次はもっとおいしいアイアスが食べたくなりました。②そして森永のモウを食べました。ガリガリ君と違ってミルクのおいしい味がします。③もっとミルクの味を感じたくてハーゲンダッツを食べる事にしました。この時お小遣いのことが心配でしたがハーゲンダッツの魅力に勝てなかった僕は無理をしてハーゲンダッツを買って食べました。うまい!こんなうまいアイスは食べたことがない。④僕はお小遣いことも忘れ今日もハーゲンダッツを食べました。お小遣いは無くなります。お母さんに相談したら怒られました。今はガリガリ君も食べることができません。

 これは例えです。それぞれの考えで上記の図の①~④後の( )に自分の目標、その為にやるべきことを整理してみて下さい。そこで、この例えでも間違った認識を持つ方もいますので少し解説をしましょう。①~④全てガリガリ君を選択すれば正解に辿り着く。間違いです。この選択では②に進めません。常に①にいる状態です。最終的にはハーゲンダッツを毎日食べれなければ成功に辿り着けない。この様な条件付きです。ではどうしますか。答えは簡単。お金を稼いでお金持ちになれば良い。これだけです。陸上競技でいうお金はポテンシャルの事です。一つの目標がクリアーさせればもう一段高い目標にチャレンジしたくなる。これは良い事ですがその目標にあったポテンシャルが今の自分に備わっているかの判断を間違えると記録の停滞期、スランプ、最悪けがなどの障害等が待っています。これは上の例えでいう所のハーゲンダッツを買うお金もないのに買ってしまい金欠になり最終的にはガリガリ君も食べられない状態にまでなってしまった。ということと同じと考えて下さい。

1.成功を選択するためには葛藤が不可欠
 精神的ポテンシャルを上げる為には葛藤の域が不可欠です。身体的ポテンシャルは誰が見てもすぐに解る身体能力の高さです。しかしこのポテンシャルは常に安定しているとは限りません。コンデションや病気、けがなどで大きく動きます。また、身体的ポテンシャルを高める為にはトレーニングは不可欠ですがトレーニングは楽なものではありません。そこでもっと楽をしたい。楽をしてポテンシャルを高めたいと考える選手もいるでしょう。もっと強くなりたい。しかし苦しいのは怖い。ここで葛藤になります。この時の分かれ道が前出の「できる選手」と「できない選手」に分かれます。この時のできる選手はおそらくプレッシャーを克服すべき脳内でドーパミンが大量に出ていると想像します。苦しい練習に対して挑戦するワクワク感が勝っていればできる選手になります。できない選手はこの時の恐怖心に負けていると思います。以前は指導者が高圧的に練習の恐怖心よりもさらに高い恐怖心で選手を練習させる。この様な時代もありましたがこれでは指導者がいなくなった時に選手の成長は止まります。練習の苦しさとは別の自分自身をコントロールする力も必要です。正しく食べる。眠るなどコンデションを整える行為を遊びたい、夜更かしたい、栄養のないジャンクフードばかりを食べたい等の欲求と戦わなければなりません。この様な局面で正しい選択を続ける事が唯一表題の「続ける」ことを可能にする方法です。この行為を自律といいます。ベイサイドアスレチッククラブのメソッドは自律できる選手を育成する。この目的を第一とします。この自律心が一歩を踏み出す原動力になります。
 一歩を踏み出す事ができた選手が再び葛藤をしなければならない場面があります。順調な時には何も考えず前だけ見て進む事ができるでしょう。そして前回説明した常に自分の身体的ポテンシャルをバージョンアップし続けることができれば結果もついてきます。しかし壁は急に現れます。目標が高くなれば当然、やるべき課題も課題の難易度も増します。前回の例での登り坂が急にきつくなる瞬間です。しかし案外この瞬間に気づく事がありません。なぜならこの瞬間を正確に判断する材料は経験しかないからです。以前例として出した100mのレースでCとDの例で考えれば、あのレースの瞬間、Dが身体的、精神的ポテンシャルは上ですが結果的にCが勝利したのは経験の差といえます。ですから私の考えはでは経験値を増やす為の失敗は有意義であり失敗をさせないためのに作られたマニュアルは長期的には選手の可能性を潰すことにもなると考えます。そこで失敗を経験に変える方法が重要になります。最初にやる事は失敗を受け入れる事です。この時に葛藤の域に入ります。本来ならば順調な時にも一つ一つの判断を行う時は葛藤の域にいることが必要です。しかし順調な時ほどあまり考えず行動しがちです。判断をしないで前に進んでいることも多いと思います。これも解りやすい例えで紹介しましょう。
 
 信号が青の時、信号の前で左右を確認する人は少ないと思います。青信号だけ見て前に進みます。当然,黄色や点滅の場合は進むか待つかを考えます。赤では待ちます。これは目の前に信号機があるから解る事ですが自分の人生における信号機はありません。そこで自分の人生の信号機を作らなければなりません。その信号機をつくる材料が経験と考えて下さい。これは私見です。あくまでも私見としての意見ですが、Cは黄色、あるいは青の点滅でも横断歩道を渡れることを知っていたと思います。しかしDは同じ様な条件で躊躇してしまった。この差が勝敗を分けたと考えます。この時、Dは渡るべきか止まるべきかの一瞬の迷いが葛藤となりました。葛藤の域は成長に欠かすことはできませんがレース本番での葛藤は迷いにしかなりません。レースではレースに集中しなければ結果はついてきません。その為にレースに集中できる材料を調える。これを戦略といいます。スタートに立った時にはほぼ結果は決まっているのが陸上競技なのでそこまでにどれだけの準備ができたが勝負になります。

2,失敗を経験に変える方法
 よく指導者が、「失敗は取り返せ」と選手に言う事がありますが、失敗は取り返すことはできません。例えば自分のミスで試合に負けた。この様な結果として残っているものを覆すにはタイムマシンが必要です。あの時に返ってやり直すことは不可能です。しかし、失敗を自分のデータベースに保存し同じ様な場面でデータを活用して成功に近い方法を選択することことはできます。失敗をデータベースに入れるだけでなく分析する事で失敗した理由もみえてきます。これは同じ失敗を繰り返さないための最良の方法です。失敗からは多くの事が学べます。その為に失敗を受け入れる勇気を持って下さい。言い訳や誰かの責任に転嫁していては失敗を受け入れることはできません。自分を責めてもいけません。これでは経験とならず後悔としか残らなくなります。それを成功にピラミッドで表現すると下の様になります。

 

   失敗を受け入れ、失敗の原因を探る。そして一歩を踏み出す勇気を溜める。この時期が葛藤域です。一歩踏み出した瞬間が不安の域です。最初の一歩が上手くいかない。なんかしっくりこない。この様な場合はもう一度葛藤の域に下がる事になりますがこれを経験とたらえ自分の武器が増えると解釈できたならば前に進むこともできます。

 後記

 私がDが100のレースに失敗した時、どの様に失敗を認識させ以降のレースで成功させるかを考えた時一番効果的な伝え方を考えました。その結果、多くを伝えず一言だけ「真剣勝負ならおまえは死んでいる。死んだら次はない。次は必ず止めを刺せ」の一言に止めました。これはDのポテンシャルを考えた上での戦略的な方法です。次回は戦略と戦術についてお話をします。
 今年の日本選手権男子5000mで大迫選手が4000m付近で棄権しました。過去の日本人的な発想ではネガティブな意見が多く出ると思います。しかし,あそこで彼が棄権したのには理由があるでしょう。その選択ができる選手だからオリンピックの代表になれた。私はこの様に思います。