2023年12月10日

ポテンシャルを考える

1、ポテンシャルと実力の違い

   今回はポテンシャルと実力の関係や違いを理解しどの様にするとポテンシャルをあげることができるかを解説します。但し持論が多くある少し癖のある無いようかもしれません。そこを踏まえてこんな考え方も有りか程度で読んで下さい。このスタンスは前回と同様です。 
 最初にポテンシャルですが、人や物が持つ潜在能力や可能性をさしたものです。それに対して実力は、既に発揮された実際の能力や技量のことです。つまり、ポテンシャルはまだ未開発の可能性を秘めており、実力は既に示された成果や力量です。ここからは世間の一般的な解釈ではなく自分が経験し感じた解釈になります。そこでポテンシャルを持っているお金に例え、前回同様に今の自分の所持金で何が買えるかという考え方をポテンシャルに当てはめて考えていきます。
 
今の自分のポテンシャルを「お金」で例えた時、1000円の所持金で買える物を正確に判断しないと失敗します。当たり前ですが何が買えるかを財布の中身を確認しないで買う人間はまずいません。もし買ってしまうケースがあるとすれば財布を忘れた。財布の中の現金を勘違いしていたとなります。最近はカードだけで買い物をするケースも多いので現金しか使えない店では財布の中の現金を確認しないで買い物をすることは危険です。ところが陸上競技の場合、自分のポテンシャル(所持金)以上の目標を立て計画通りの進まないために挫折してしまう選手。ポテンシャル以上の練習を行って潰れてしまう選手は多くいます。これは自分のポテンシャルが解っていない場合や、そもそもポテンシャルの上げ方を正しく理解していない結果だと思います。そこでポテンシャルと実力の関係性や違いについて解説します。

2,ポテンシャルと実力の関係性

 まず前回同様に解りやすくお金に例えて話をします。下の図を見て下さい。

 この図は自分のポテンシャルを今現在の所持金に例えています。日常生活の中では自分の所持金以上の買い物はしません。当たり前ですが競技の中ではこのポテンシャルを正確に観ることができず間違った練習やトレーニングをしてポテンシャルを下げてしまうことが多くあります。そこで以下の様に考えて下さい。

 ポテンシャル>(練習=実力)

 上記の様になり実力がポテンシャルを上回ることは絶対にありません。大会などで優秀な成績を収めたいと考えた場合ハードな練習が必要と考えるのは間違いではありませんがポテンシャルを越えた練習やトレーニングは明らかに間違いです。この間違いを犯す原因には練習さえすれば実力が上がるという間違った常識があるからだと思います。これもお金で例えると間違いがよくわかります。速く走りたい意欲が高まってくれば道具にもこだわりが出ます。スパイクなどは良い例で記録を出すために15000円のスパイクが欲しいと考えた時、所持金が10000円しかなければ10000円以下のスパイクを買うしかないことは誰でも理解しています。これは視覚的にも思考的にもはっきり見えてるため間違いません。しかしポテンシャルを正確に観る事ができる人間は少ないため10000円のポテンシャルで15000円のスパイクを買う(練習・トレーニング)をするといった間違いをします。そして間違いに気がつかないことも多くあります。そこでポテンシャルを向上させる為に必要なことを考えてみましょう。

3、ポテンシャル向上に必要なこと

(1)ポテンシャルを観る事ができる
 自分のポテンシャルを所持金に例えた場合、今の自分のポテンシャルを1000円としたならば税込み1000円までしか買うことはできません。誰でも理解できる理屈です。目に見える「お金」で例えると自分の所持金を把握していない人は少ないです。しかし,目には見えづらいポテンシャルを正確に把握している選手は少ないと思います。買い物に例えると所持金が1000円の時に消費税を計算できずに1000円の物を買う。これは自分のポテンシャルを計算できていない選手です。もし1200円の物を買おうとするならば全く論外です。その他にアクシデントがあります。普段は1000円持って買い物に行くのに今日は雨だったので自転車じゃなくバスを使った。当然バス代がかかりますので1000円は持っていません。この様にポテンシャルは流動的であり増えたり減ったりするものです。それを観る事ができる感性は必須です。陸上競技の練習はある程度決まっていますが何故か選手を育てる事ができる指導者とそうでない指導者がいます。それは選手のポテンシャルが観えるか見えないかの違いだと私は考えます。ポテンシャルを観ることができるからこそ選手を強化するための道筋(戦略)や勝つための方法(戦術)を組み立てる事ができると思います。

ポイント
 「観る」とあえて表記するには理由があります。観る(みる)とPCでタイプすると変換されますが(みえる)とタイプすると「見える」としか変換されません。敢えて「観る」と表現するのは観察する様にじっくりと慎重に観なければいけなという意味で使います。私は「みる」を四段階で考えます。それを指導者にあてはめると以下の通りになります。「みる」ただみているだけ。指導ができない(しない)指導者。「見る」選手の成長を見ている。また指導ができる普通の指導者。「観る」選手のポテンシャルや特性、状態が良いか悪いかのを観る事ができる。選手の内面や葛藤なども把握できるために指導のタイミングを誤らない指導者。「未る・みる」選手を正確に観ることができるため未来の戦略と戦術を駆使し選手を成功に導くことができる指導者。

(2)ポテンシャルを理解し正しいポテンシャルの上げ方を知る
 ポテンシャルには精神的ポテンシャルと身体的ポテンシャルがあります。それぞれのポテンシャルにはどの様な要素があるかを考えます。 

 精神的ポテンシャル
 ①自己肯定感・・自分の強みも弱みも理解し、全てを受け入れることができている
         自分のポテンシャルに見合った目標を持ち常にアップデートすることができる
         多少の困難でも折れない強い心を持っている
 ②客観的視野・・自分を正確に判断でき、難しい局面でも乗り切る方法を考え実行することができる
         自分という柱を持ちつつ他者の意見も聴くことができる。また、意見を参考に自分の方法を修正できる
         間違ったプライド、周囲の雑音で自分のペースを乱すようなことがない
          
 身体的ポテンシャル
 ①筋   力・・  速い動き、大きな動きができる
 ②柔  軟  性 ・・  可動域の大きな動きができる。怪我などのアクシデントを避ける能力が高い
 ③体  格 ・・   大きい体,長い手足は有利である
 
 実   力
 ポテンシャルの高さを使い、試合で勝つための速いピッチ、長いストライド、無駄な力で減速しないフォーム(これら全てを技術)を身につけている。緊張を強いられる場面でも自分の実力を100%発揮できる強い精神力があり目標とする結果を得ることができる。

 以上の様に精神的ポテンシャル、身体的ポテンシャル、実力を分けて考える必要があります。選手は試合で良い成績を収めようと練習を行いますが、例えば上記の体格や筋力は練習しなくても向上する時期があります。中学生くらいから始まる第二次成長期がこの時期で練習をしなくても体は大きくなり体の成長に伴い筋力も強くなります。この時期にポテンシャルを超える運動を行うことは成長を阻害したり,結果的に成長痛などを誘発します。また、指導者が結果を優先する指導を行い選手の「ワクワク」する気持ちを枯らしてしまう危険性も十分配慮しなければなりません。運動を始めた当初の児童・生徒の場合ポテンシャルの高さだけで成績が決まります。もし、中学校、高校、大学と競技を続け国際大会をも視野入れ考えるならばこの時期のポテンシャルの高さを有効に使い成長を継続させなくてはなりません。ポテンシャルの無駄使いで「ポテ欠」になっては意味がありません。

(3)ポテンシャルをあげる練習の考え方
 練習で上げるのは実力です。先にも書きましたが「高い技術と強い精神力」を併せ持った状態で、この状態を維持できることが「真の実力」があると評価できます。この状態を維持するためには良いコンデションを保ち続ける必要があります。このことはアクシデントを事前に察知し遭遇しないように自身を客観的に観る能力と自分をコントロールする能力が必要になります。アクシデントを怪我と捉えたならばポテンシャルを超えた動きや練習が原因ですが、何度も言うようにポテンシャルは変化します。そこでポテンシャルの変化を「お金」(所持金)に例えどの様にすればポテンシャルと実力を上げる練習になるかをイメージしてみます。

 上の図のA、B、C、の選手を下から解説します。

選手C
 自分のポテンシャル以上を求めた為に怪我、原因不明の不調や体調不良を招いてしまう。不調を修復しようと練習を継続するが不調から抜け出せない。かえって不調が重くなる状態。この状態を抜け出すには一度リセットする必要もある。

選手B
 最初の段階では順調に実力を伸ばすこともできるが限界を迎えた瞬間に対応できなくなる可能性が高い。ポテンシャル一杯まで活動している事から不調の波には対応できずに潰れてしまう危険性もある。

選手A
 少ない数ではあるがポテンシャル(P)は増えている。上の図では使用するお金(練習量)は990円としているが状態を把握し950~1000円前後の練習量をキープしポテンシャル(P)を少しずつでも貯める(ポテンシャルを上げる)練習を心懸けることで実力をつけるための練習の質も上げることが可能になる。

例外E
 例外とポテンシャル以上の力を試合や練習中に発揮してしまうケース、選手です。次回は例外について詳しく説明します。

 

 後 記

 ポテンシャルは変動するものです。人間にはピークがあります。年齢的に言えば20歳前後から26~27才頃が実力のピークと考えることができます。しかし年齢を重ね世間との接点が多くなるにつれてコンデションを維持する事よりも目先の楽しさや誘惑に負けて自分のポテンシャルの高さを活かせない選手も多くいます。逆にピークを越えているであろう35才を過ぎてからもコンデションを管理しポテンシャルを落とさない選手もいます。これは身体的ポテンシャルを自動車、精神的ポテンシャルをドライバーに置き換えるかと説明がしやすいです。機械は長年使っていれば劣化します。劣化しないような運転と点検を意識しているドライバーは長く自動車の性能を維持しながら乗り続けます。しかし無茶な運転。自動車の整備には全く無頓着で乗っていれば劣化も早いでしょう。選手が大会等で良い成績を収めるためた時に選手の実力に注目する人は多いですが、それは身体的ポテンシャルを磨き続けることができる精神的ポテンシャルの強さがなければできません。それに身体的ポテンシャルは肉体のピークと共に減少します。生きている以上老いには勝てません。しかし精神的ポテンシャルは死ぬまで成長出来ます。だから選手を育てる場合、身体的ポテンシャルよりも精神的ポテンシャルを上位に考えることは当然だと思っています。