メソッドのエピソード
2024年04月19日

子供の顔色をみて練習すること

 私は常に練習では子供の顔色を注視しています。誤解を防ぐため言わせてもらいますが顔色はみますが顔色を伺う的な事はしません。では顔色をみるとはどの様なことなのでしょうか。実際のデータで説明します。
 下記の表は小学生の30mから50mの記録を測定したものです。A~Eは児童個々を表し(数字)は学年を表します。測定時は4月13日(土)午後13時30分頃から約30分。天候は晴れで緩やかな追い風を使っています。途中、他の競技者の手前若干場所を移していますが距離は正確に計っています。場所は浦安市陸上競技場。オールウェザートラック。服装は運動をしやすい服装であるがユニフォームなどの競技用ではない物を着用。靴は小学生用運動に適した物。以上が当日のデータでです。そして下記の表が児童個々の当日の記録になります。先ずはこの表だけでも幾つか気になる(興味深い)ことが解ります。

    

 では,この表から興味深い点をいくつか上げてみましょう。
(1)Aの30mの記録が他の児童と比べて異常に速い。
(2)Eは30mの記録よりも40mの記録の方が速い。
(3)3年生は40mでの記録で2回目の測定時で伸びている。
(4)50mのトライアルに進んだのは3年生のみである。

 まず(1)についてですが多分測定のミスと考えます。もし小学生が30m2秒台で走ってしまえば50mで5秒台前半、それ以上の記録が出る事になるので完全に計測ミスと考えます。
 次に(2)のEのタイムについてですが先ず30mでEはAと同じ組で走っています。実力差があったためにEは途中から戦意喪失の状態に入りました。そこで全力を出さずにレースを終えています。そこで40mでは競争で走ることを避け個々で記録を取っています。そしてEは最後に行った200mTSも行っています。これは最後に全力走を行う事ですが各自が自分の意志で行います。自由に選択する事ができるメニューですが小学生にはかなり厳しい内容のメニューです。200mTSに付けられているマークは評価になります。◎は最上のできであった事を意味します。△は完走できなかったことを表します。では子供の顔色をみるとはどういう意味なのかの本題に入りましょう。その前に「みる」と同じ響きの言葉で表現していてもそれぞれのレベルで全くみえているものは違うということを説名します。30m測定のEの結果を参考にみえている物の違いについて説名をします。

 見る・・物事の有り様しか見えていない状態・・・・Eは急に減速した。やる気が無いと判断する
 視る・・物事の原因を考えるが視えていない状態・・Eが急激に減速したのには理由があると考える。先ず怪我等を考える。
 観る・・原因がはっきり観え、対策が解る状態・・・Eが急激に減速したのは負けたくないから。そこでどの様にすることがEの可能性を潰さないかを考える。
 未る・・最善の方法とその後の結果が解る状態・・・先ず競うべき対象を変える。Eの相手はAではなくE自身で有る事を理解させる方法を取り,自分自身の失敗に気付かせ良い方向に転換できる道筋を行う。
 ※上の「みる」と表現している漢字の綴り方は当て字のため漢字として正しい使い方をしていない物もあります。

 そこで「未る」指導での対応について考えます。40m二回目は誰かと競う方法ではなく一人で走る方法を取ります。これは他と競争する意識から自分自身と競争する意識に変える為です。これはEが30mのタイム測定の際に自分の実力と相手の実力差に怖じ気づいてしまって測定で全力を出せずに測定を終えたと仮定したからです。そこで相手が自分よりも強い時に力を出さずにレースを終えることは良くない事を理解させ、この経験を次の機会で良い方向で発揮する道筋を考えたからです。ここで重要な事は指導者は選手を育てる目的に最もあった指導、助言を行わなければならないということです。例えば「見ている」ポテンシャルと「未えている」ポテンシャルでは指導は違ってきます。「見ている」ポテンシャルでは最後まで走らないことを悪いと事と評価し、力を抜くなと指導するでしょう。「未えている」ポテンシャルの指導は、途中で力を抜くようなことをすれば損だと教えます。なぜなら君は本当の自分より低い評価をされる。まして力を抜いた事で「低い評価」と同時に「悪い評価」もされる。これは損なことだからやってはいけない。 この様な事を理解させます。具体的には選手、生徒、児童が解りやすい言葉(ワード)を選び文脈ではなく「言葉の力」を利用します。この時に選手、生徒、児童のポテンシャルに合わせた言葉の選択は重要になります。ポテンシャルとは選手の目的意識ともリンクするため選手のポテンシャルと目的意識はしっかり把握する必要があるでしょう。クラブに参加する目的が友達と楽しく時間を過ごす。この様な目的で参加している選手と試合で一番になることを目的にしている選手では同じ事を言っても通用しません。Eと同じ様な事象が起きた時に「友達と仲良く」が目的の選手であれば「かっこ悪い」が一番効果的だと思いますが、選手自身が格好悪くなりたくないよりも友達と楽しく過ごしたいを優先する様であれば選手のポテンシャルが上がるまで待つことになります。これも選手の顔色を観て判断します。
 上の例で言えば3年生と2年生以下でははっきりとした意識の差が生じていることがわかります。そしてA,C、Eの三人のストロングポイントと課題もみえてきます。当然指導は選手を伸ばす目的をを踏まえた指導をて行いますが大切な要素はタイミングが観えているかです。指導者と選手の間では実力を伸ばす目的での言葉のやりとりが頻繁にあります。これは選手の潜在的な能力を引き出し(選手に気付かせ)その能力を選手個々がどの様に伸ばして行くかの方法を見つけ、工夫し実践させるために行います。このやりとりをキャッチボールに例えます。選手のポテンシャルが高ければ多少速い球もキャッチできます。胸をめがけた剛速球も取りづらい難しい球もキャッチできるでしょう。これを言葉のキャッチボールに例えると最初がド正論の厳しい言葉になり、次が考えさせる事を目的とした課題になります。ポテンシャルが低い場合はど真ん中の速球は怖くて逃げてしまいます。難しい球は捕れません。だから最初のうちは取りやすく柔らかい為を投げます。そこから少しずつ速く重く取りづらい玉を増やしていきます。その玉を投げるタイミング、少し速いためを投げても大丈夫なタイミング、難しい球も捕れるようになったタイミング、そして指導者に向けてキャッチした球を的確に投げ返せるようになったタイミングを見逃さないといことです。
 上の例で言えば2年生以下は体力的な事もありますが40mの2回目以降に目的が変わったと考えます。記録への挑戦ではなく友達と遊びたいに変化したと装うします。これを「見る」ポテンシャルで判断すれば集中力が無い、他につられていると判断するかもしれません。「未る」ポテンシャルでみた時は今はタイミングでない事、それとBのまだ発揮されていないポテンシャル(40m1回目の記録)そしてBがDが居ることで上級生に囲まれるプレッシャーを軽減できているのではないかという予想もできます。そこから二人の伸びしろを未ることができます。
 上級の3人はAの持っているポテンシャルの高さをもっと引き出しにはどうするか、Cの集中力の高さ、Eのチャレンジする気持ちがを活かすにはどうするか。その為の玉を投げ続け時にはキャッチできない場合もあると思いますがトライアンドエラーを続ける。そして上手くいったという瞬間を見逃さない。この様な指導を行います。

 

 後  記

 かつて中学校の顧問をしていた時の生徒と偶然町中で会い一杯飲もうとなり、仲間を集めて一席飲んだ時に彼からこんな事を言われました。先生は練習に来ないときも教室とかで密かに自分たちを監視していたのかと言われました。だから手を抜かなかったと言うのですが流石にそんな手間のかかることはしないと答えました。彼は中学1年生時の100mの記録は12秒5台で県通信も県総体も出場できませんでした。1年生時に始めて出場した100mは県新人で予選落ちです。2年後の3年生時には100mを10秒99で走り、その年の全国ランキング4位。全国大会、関東大会等で活躍できる選手になりました。彼の活躍に刺激され他の選手も結果を残し400mリレーでも全国大会に出場しています。子供の可能性は無限大。可能性を壊さないために顔色は常に観ていきます。