メソッドのエピソード
2024年06月08日

ポテンシャルを観る

  素人が自慢のお宝を持って来て鑑定する番組があります。本人がお宝と思っていた物がガラクタだったり、只の古い物と思っていた物がお宝だったりする番組です。この時の鑑定士と素人の人達の違いは何だろうかという疑問がわきます。何故鑑定士は本物と偽物を鑑定できるか、何故素人は本物と偽物がわからないのかという疑問です。答えはいたってシンプルだと思います。鑑定士は過去に多くの本物を観て、同時に本物以上に偽物も観て来たからです。経験が浅かった頃には本物と偽物を間違えたなどの失敗も経験しているかもしれません。何が言いたいかと言うと陸上競技の練習は球技等よりもシンプルです。大体同じ様な練習体系で行いますが指導者によって結果は変わります。確かに熱心に指導する指導者と仕方なくやっている指導者では結果に差が出るのは当たり前ですが一応熱心に行っていても指導者で差は出ます。それは観ている観点に違いがあるからだと私は考えます。

 観点の話をする前に選手を観る時の指導者の見方の違いを話します。それぞれ「見る」「視る」「観る」「未る」の4段階に分かれます。後半の二つは正しい使い方でないと思います。「未る」と書いて「みる」とは読みません。当て字の様な物だと理解して下さい。そこで個の4段階の「みる」を解りやすく説明する動がを見て下さい。この説はかなり私見が入ります。よく言われる私の独断と偏見による意見として聞いて下さい。

 この動画を見た時の4つの見方の違いを説明しましょう。

 見る・・女の子が坂道を走る練習をしている。頑張っている。
 視る・・オレンジのコーンで何かしようとしているのか。何か意味はあるのだろうか。

 ここまでは素人の領域です。見るは漠然と物事を観ている状態だと考えて下さい。視るは少し注意を払って全体を視ています。当然コーンは何故そこにあるのかまで考えるでしょう。
次に「観る」と「未る」の見方の例を紹介します。

 観る・・コーンを境に何らかのアクションを起こすことを選手に要求しているのだろう。しかし出来てはいない。
 未る・・アクションを起こせないのはポテンシャルの不足。あるいはオーバーワークかもしれない。将来のために正しい判断は。

 これが玄人の考え方です。コーンを起点に何らかのアクションを起こそうという意図は選手が微妙に力を加えている様に見えることから判断します。具体的には左の手と肩の動きで判断できます。しかし練習の目的はできていないことも解ります。ここまでが観るの見方です。未るとは、コーンから「速く動く」「速度を上げる」ことが練習の目的と判断したうえで、出来ていないのであれば選手のポテンシャルを不足を考え、強化の方法を模索します。同時には小さい子供だから無理をさせていないか等の将来に有益な練習か子供の可能性を潰す練習になっていないかを考えます。「観る」は今の状態を正確に判断し「未る」は将来的に有効な方法を正しく判断、実行する事です。したがって「観る」と「未る」はセットで考えます。
 鑑定士の話に戻りますが素人は見た目の良さを見て、特徴がお宝と似ているなどを視ます。そこで、これはお宝だと思うのですが勘違いです。鑑定士は形や色から創られた時代や作者も観る事ができます。そのうえで将来このお宝がどの様な値打ちを付けるかまで予想します。選手を指導する上でこの様な見方ができる指導者と漠然と選手を見ている指導者では差は出ます。全く同じ内容の練習を行っていてもです。同じ練習内容であるから差は歴然となるとも言えるかもしれません。
 この例えは第三者的視点で観たケースですが実際の指導の現場で玄人の指導者は何を観ているかですが私はポテンシャルとポテンシャルの状態を観ます。今日はポテンシャルの状態とは何かの解説をします。

 そこで先ずポテンシャルとは何かを理解する必要があります。諸説あると思いますが、これからも私の持論いなります。ポテンシャルとは選手の可能性と考えて下さい。実力とは持っているポテンシャルを十分発揮できる能力と考えます。したの図が解りやすい例です。

 

     

   上の二つの図はポテンシャルと実力の関係を示しています。ポテンシャルはバケツの大きさで実力は中の水と考えます。上の図(1)の状態は身体的にも精神的にも安定しています。この状態であれば12秒0のポテンシャルで実力通りの12秒0の結果が出ます。(2)は何らかの問題が生じて不安定な状態になった場合です。ポテンシャルが実力として定着していない状態では水はこぼれバケツの中の水量は8ℓまで落ちます。この状態はポテンシャルは12秒0であるが実力は12秒5と考えます。下の図はアクシデント等があって不安定な状態にもかかわらず水はこぼれていません。自然界ではありえない例ですがポテンシャルと実力を感げる場合適切な例えです。この状態は不安定な状態でも水はこぼれていません。外からの影響があって不安定な状態であっても自分自身の安定を保っている。どんな状況でもポテンシャル通りに力が出せる状態。実力が定着した状態と考えます。
 私が観るポテンシャルとは選手のポテンシャルの量とポテンシャルの状態です。安定していればポテンシャル通りの結果が期待できます。しかし実力が定着していない場合は結果は異なります。これは精神的ポテンシャル、身体的ポテンシャル同様に同じ事が言え、特に精神的ポテンシャルでは状態が良ければ厳しい指摘や課題を受け入れて課題に取り組み解決できます。しかし状態が悪ければ反発として返ってきます。それを成功のピラミッドで解説します。 

 ポテンシャルを実力として定着させている段階ではやるべき事く(課題)も多く、一時的にに葛藤の域に入ります。この段階を経て実力が定着したと言えます。そこからさらに高い目標を作る場合は同じ様に先ずポテンシャルをあげる練習をし、実力として定着させます。小さな目標を一歩ずつ上がって行くようにポテンシャルをあげ、その都度定着したかを確認します。この行為を続けポテンシャルを上げ実力として定着させます。それはレンガをセメントで積み上げる作業に似ています。セメントが固まっていれが押してもレンガはずれません。しかし固まる前に押してしまえばレンガはずれてしまいやり直しになります。この状態がポテンシャルが実力として定着する過程と同じです。指導者は選手のポテンシャルが固めって実力になっているか。まだ,固まっていないなら良い(安定)状態か悪い(不安定)を見極める必要があります。良い状態であればセメントの固まり具合を確かめるようにそっと触って課題を出します。悪い状態であれば課題は出さずにそっとしておくくらいが丁度良いと思います。

 

 後 記

 この動画4本目のものです。最初提示した本数は3本。始めて坂を全力で登る練習です。只登るだけでなく途中のポイント(コーン)でもう一段スピードを上げる条件付きです。1本目は慎重になったのか、それとも少し怖じ気づいたのか全力では走れません。2本目に入る前に課題を出します。君の良い点は前半のスピードが速いこと。このコーンからもう一段スピードを上げる事ができれば自分の良さを伸ばし前回の記録会よりも良い記録が出る。2本目は全力で駆け上がりコーンで反応することができました。3本目はできません。体力的にも気持ち的にも限界と感じました。最初の提示が3本であったことで終了することを提案します。上手く出来なかったことが悔しかったかもう1本走ると言います。ここでポテンシャルを観る事になります。選択肢は二つ。一つはよく頑張れたので今日は終わりにしようという提案。これは褒める(評価)し終了すると伝える事です。もう一つは課題を出し本人の希望通り走らせること。身体的ポテンシャルを考えれば練習の目的にあった走りはできないと思います。精神的ポテンシャル的に考えると課題に対し前向きに受け止める能力があるか、逆に不満のとして現れるかになります。実力が定着したと判断すれば後者一択です。そこを正確に判断することが大切です。そこで選手に与えた課題は「コーンでもう一度走りのギアを変えることができなければ意味が無い」といった内容を伝えて、やる、やらないは自分で決めなさい。この様な課題を出した後の4本目です。結果もう1本走ると言い最終的に5本走りました。5本目は本人も全然できていないことを確信したのかこれで終わりと言ってきました。今日は良い(安定)状態だった思います。実力として定着してきたかを見極める段階に入ったと思いました。